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ひめじ芸術文化創造会議

公開日時 : 2019年11月08日

本稿は、2019年10月20日[日] 「フェニーチェ堺」にて行われたディスカッションを分かりやすくまとめたものです。姫路市の新施設との比較研究のため、大阪府堺市の「フェニーチェ堺」を訪れ、施設運営や開館前後のことについて取材を行いました。本稿の記録は穐田佳久が行い、当会議にて編集を行いました。

施設運営と市民の関わり


談話風景
談話風景

月ヶ瀬 悠次郎(以下、月ヶ瀬)(ホールの運営は堺市文化振興財団さんが担当しておられるとのことですが)市と財団の役割分担・協力はどのように?

堺市文化振興財団職員(以下、施設管理者)もともと堺市において、施設計画などを進めてきましたが、私たち(堺市文化振興財団)が指定管理を受けることになってからは、二人三脚で開館PRやプレ事業を進めてきました。これからも、一緒に発信していければと思っています。姫路市さんの施設は管理運営はどうですか?

月ヶ瀬姫路の場合はちょっと特殊な施設で……コンベンションセンターが併設されます。文化振興財団(姫路市の場合は文化国際交流財団ですけども)では荷が重かろう、と。そういうわけで、そういったコンベンションなどに強い民間企業(を含めた共同事業体)が指定管理者として入ることになっています。ですので、市と財団と指定管理者の三位一体で進めていっていただけるのではないかと思っています。市民の間には「責任のたらい回しになっちゃうのでは?」という心配の声もあるにはありますが……

※姫路市の場合は単純な文化ホールの運営だけではなく、管理者には大きな展示会や国際会議などの誘致まで求められます。

一同

月ヶ瀬「実際、誰が音頭を取るのかな……?」というときに、私たち市民としては「こういうことをやってほしい」ということをきちんと伝えていく必要があるのだろうな、と思っています。ただし、採算などのことも考えながら、ですね。やってほしいことを何でもかんでもやってもらおうというような(例えば「24時間使えるように」みたいな)意見も市民からはたまに出ますが、実際24/7で使うわけじゃないですし……(笑)

施設管理者それは、ものすごく……維持管理費だけでも相当かかりますね。

月ヶ瀬ええ。姫路市の施設について、私たちは設計がほぼ固まったくらいからくちばしを突っ込んでいるんです。ですから、ハード面については「今からの変更は難しいです」ということになることが多いので、運営についてチョイチョイ意見を投げてみようか……と。同時に、市民からのアイデアや要望について、明らかに実現不可能そうなものについては「それは、めっちゃお金かかりますよ。めったに使わないですし、1回使うだけ度に●●●万円と思ったら、他のことに使ったほうが良くないですか?」と。行政の方の口からは「そんなん無理に決まってるやろ」とは言えませんから、私たちが変わりに言う(笑)

一同

月ヶ瀬一方で、実現できそうなことについては「これ、できますよね?」と行政に詰め寄る……。

一同

月ヶ瀬まぁ、こうして市民と行政の両方からありがたがられているような、迷惑がられているような……どちらかというと迷惑がられているのかな?

一同

施設管理者確かに、そうやってコストで出していったりしたら、本当にその機能がいるのかいらないのかっていう、ちょっと突っ込んだ議論ができますね。どうしてもご自身が見聞きしたものから「そういうのがあったらいいな」と直結しがちなんですけど、おっしゃるように物のコストもありますし、人的なコストもかかってきます。



市民・文化団体との連帯について


堺市民会館整備計画
堺市民会館整備計画

月ヶ瀬堺市の場合は、資料などを拝見しましたところ、随分としっかりしたリサーチやブランディングをされているな、という印象です。

施設管理者市民を対象として無作為に選んだ3,000人にアンケート調査を行いました。また、市民や文化団体の方を対象としたワークショップを計4回実施しました。これらの意見をもとに整備計画検討懇話会というのを開いて、ホール設計者や学識者などの専門家の意見をいただきました。

月ヶ瀬実はWEBで公開されている『堺市民会館整備計画(平成25年6月)』など見せていただいたのですが、「クラシック音楽を求める人が何%で、ロックが聞きたい人が何%……」と結構具体的な数字で公開されていて「(計画段階から)市民が求める劇場を作ろうとしています」とはっきりわかるのが良いですね。

施設管理者先程おっしゃてたように、市民の要望の全てを聞くことはなかなか難しい。堺市には市内の各区に500〜700席規模の文化ホールがありまして、その辺りも含めて考えると「(ある要望に対しては)その機能は●●区のホールにありますよ」と。そういったのを斟酌しながら計画をまとめていきました。

月ヶ瀬姫路市の場合は、合併特例債の期限などの都合で計画を急いだところがあったので、市民の間に「置いてけぼり感」が出てしまった側面もあります。いまからでも「みんなのホール」感が出せると良いなぁ……。他のホールとかで棲み分け、ジャンルの特化などについて基準などはありますか?

施設管理者市内の公的なホールは、基本的に多目的ホール(プロセニアム型)です。客席数には違いがありますが、ある程度「何にでも使える」ということが前提になります。ただ、付随する施設に特色が……例えばA会館には陶芸室、B会館には大きめの練習室……というふうに、それぞれにしかない施設があります。事前調査でも「音楽練習室がほしい」という声が多かったですね。予約がいっぱいで使えないなどの声も。それで、「フェニーチェ堺」には大型の音楽練習室を設置することになりました。「棲み分け」というよりは「いままで足りなかったものを補う」という考え方で作っていますので、結果的にそれぞれの差別化がなされています。昔は教育委員会が文化施設を管理おり、管理が市長部局に移って……という流れがありましたので、最初から市内七区で「ここは演劇、ここは音楽……」という目的別の区別はなかなかできませんでした。

月ヶ瀬「多目的は無目的」とも言われますが、万能性を求めすぎて重箱の隅をつつくようなことをしても仕方ないですしね。公共のものは、ある程度は多目的でなければならない事情もありますし。

施設管理者敷地やお金が潤沢にあれば、ここ(フェニーチェ堺)にも500〜1000席規模の中ホールが設置できたと思いますが、各区に400〜800席のホールがあって稼働率にも余裕がありますから、まずは大ホール・小ホールという前提で計画し、ヒアリングを重ねたと思います。



開館(杮落とし)イベントについて


開館式典のパンフレット、施設案内など
開館式典のパンフレット、施設案内など

参加者開館式典のパンフレットなんかも、とても格好いいですよね。

月ヶ瀬今は、開館したばかりの杮落とし期間で、様々なジャンルの出し物を立て続けに開催しておられるのですね。これは、ジャンルごとの向き不向きや補わなくてはならないところなどを確認する意味合いと、市民や関係者に「こんなことも、あんなこともできるホールですよ」とPRする狙いがあるのではないかと思いますが…

施設管理者まさしく、そのとおりです。劇場の試運転という意味では、開館前に市内の文化団体さんに無料で会場を使っていただいて、ご意見をいただく……というようなことも行いました。

月ヶ瀬姫路もこれくらいやって欲しいなぁ……(笑)

施設管理者私たちも先行してオープンしている劇場施設(ロームシアター京都や札幌文化芸術劇場hitaruなど)を視察させていただいて、開館の手順など学ばせていただいたことから踏襲している部分もあります。そういった意味では、私どもの経験を姫路市さん・財団さん・指定管理者さんにも検討してもらって、というのが良いかもしれませんね。


オープニングイベント告知冊子
オープニングイベント告知冊子

月ヶ瀬現在(10/20)オープニングイベントラッシュの真っ最中で、多種多様なジャンルの公演を行われているとのことでしたが…… 市民の反応はどんな感じでしょう? このジャンルは思ったより人気があった/なかった、など。

施設管理者まだまだ途中なのではっきりと言えませんが、人気のあるソリストが出演するクラシック公演などは完売するものも出てきています。

月ヶ瀬祭りシーズンで客足が遠のいた、というような影響も?

この日は「堺まつり」の最中でした。

施設管理者今のところ、その影響はあまり感じませんね。市が実施したアンケート調査や大小ホールの先行利用で得られた情報を元にやってますので、大きく外すということは今のところありません。



施設運営と市民の関わり(2)


姫路市文化コンベンションセンター(外観)
姫路市文化コンベンションセンター(外観)

月ヶ瀬姫路市で話題になっている一つが「巨大な施設なので、結局は外注頼みになってしまって、いつまでも地元に運営ノウハウが定着しないまま、ずっと外注になるのではないか?」ということ。都会の大手会社が地元の会社と連携しながら、ノウハウをチョロチョロと落としてくれるのがありがたいですが、それはちょっと虫の良い話でもあります。

参加者堺市の場合は運営会社が入っているのですか?

施設管理者堺市でも文化会館に関しては、元々技術的な面は外部委託だったのです。ただ、それでは市民からの技術的な要望や意見にお応えするのは難しい。責任ある回答を行うためには技術スタッフを直接雇用することが必要だと。それで採用試験の際には広く受験してもらえるよう公共ホールのスタッフが見るようなHPでの募集をはじめ積極的にPRを行いました。契約社員という職種ですが、民間の舞台技術者ともしっかりと仕事ができる専門的なスタッフを集めることができました。

参加者大阪の「ワッハ上方」から「ソフィア堺」に配置換えになった友人が居るのですが、そういう感じで「フェニーチェ堺」にもスタッフを集めたのかしら?

施設管理者文化会館には市や県から運営を任された指定管理者がいて、そこからさらに第三者(舞台管理、清掃、警備など)に委託を出しています。堺市にも直接民間事業者が指定管理を受けている会館もあり、他市の会館も含め、複数指定管理を行っておれば、技術スタッフの配置換えなどはあるかもしれません。今回は民間事業者からの配置換えということではなく、フェニーチェ堺に転職という形態になります。

月ヶ瀬舞台に関わる人材をきちんと育てて…… もっと言えば若い人たちに「自分の生まれた町で食べていくための職業の1つとして、舞台屋っていうのがあるんだよ」と、「そこには伝統や新技術の間の素晴らしいチャレンジがあって、物作りでお金をもらって食っていけるところなんだよ」というのが理想なんですけどね。

参加者新しいホールができるのなら、そこできちんと働いて食べていく人がすごく大事ですね。なかなか舞台を作っている現場の人たちは大変ですよね。三日間徹夜して作っても、50代で手取り20万ぐらいだったり。

月ヶ瀬50代以上が中心となってきていて、20〜30代の舞台スタッフは、おそらく全国的に少なくなってきていますね。

参加者姫路市ではそういうのをひっくり返してほしいわ。

月ヶ瀬「姫路市は伝統文化の街なんだから、若者は後継者としてもっと文化に関心を……」という声はあるのですが、「じゃあ20〜30代の人たちをせめて手取り25万ぐらいで、オタク、雇ってくれますか?」といえば黙っちゃう。

一同

月ヶ瀬チケット代を安くしたり、ホールの借り賃を安くするためばかりに文化事業費を使うのではなくて、人材育成に投資できるような仕組みが欲しいですね。そうやって育てられた人材が地元で暮らしていけば、それは地元の経済の中に残っていくものですから。



施設設計について


大ホール壁面に設けられた複雑な反射面
大ホール壁面に設けられた複雑な反射面

参加者音響のためだと思いますが、大ホールの壁面のボコボコが面白いですね。

堺市職員音が良く飛び交うよう反射を考えて、こういうデザインになっています。

参加者ホコリが溜まるので、お掃除が大変だそうな……。

施設管理者苦笑

参加者先日、大手の音響設計会社の方と知り合うことがあったんです。大阪のフェスティバルホールとか、東京のサントリーホールとかを設計したとか。

月ヶ瀬それ、永田音響設計さんじゃないかな。姫路市の新施設も同じところにお願いしてるはず。姫路市職員の担当者に聞いたら、姫路市の新施設は設計担当の方の野心作だそうで、「音響についてはかなり期待しててください!」とのことでした。



併設のレストランについて


テアトロ ポンテ・ベッキオ
テアトロ ポンテ・ベッキオ

参加者併設のレストラン(テアトロ ポンテ・ベッキオ)は、計画のどのくらいの段階からあったのですか?

施設管理者旧市民会館の時代からレストランがありましたので、計画の初期からレストランを入れる方針は定まっていました。市民へのヒアリング調査でも、レストラン・食堂を望む声は多かったですね。ただ、公共施設に入るレストランの採算が合うことは少ないので、どういう風にやるかについては随分と議論がありました。

月ヶ瀬姫路の新施設は、更に大型なのに飲食店が入らない方向で進んでいるようです。姫路市としては「もしレストランに需要があるのであれば、(民業圧迫にならないよう)民間に委ねたい」ということだそうで。大ホールのホワイエには、(フェニーチェ堺と同様に)カウンターバーを設置する計画のようです。

参加者それにしても、ブランド力のある「ポンテ・ベッキオ」が入ったのはすごいことですね。大阪市内の店とはメニュー構成を変えて、価格面で「劇場併設のレストラン」としてのやり方を研究されたとか。テイクアウトで500円のパニーニが買えたり、地元に馴染もうという山根シェフ(ポンテ・ベッキオのオーナー)の考えがよく判ります。先日、お会いしたときには「堺の店、いっぱいだから、本店においで!本店暇だから!(笑)」と。

一同

施設管理者ありがたいことです。

 

月ヶ瀬では、そろそろお時間も来たということで、本日は施設の隅々までご案内いただいてありがとうございました。今後とも宜しくお願いいたします。

堺市職員・施設管理者こちらこそ、ありがとうございました。遠いところ、お疲れさまでした。お気をつけて。

出席者(敬称略)
松下 幸治 (堺市 文化観光局 文化部 文化課 - 施設整備担当主幹)
中野 郁代 (公益財団法人 堺市文化振興財団 堺市民芸術文化ホール担当部長)
柴坂 哲也 (公益財団法人 堺市文化振興財団 堺市民芸術文化ホール担当課長)

<ひめじ芸術文化創造会議>
月ヶ瀬 悠次郎(代表) 芳賀 由紀(事務局長) 高巣 恵 伊勢田 駿佑 穐田 佳久
文責
月ヶ瀬 悠次郎

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