ひめじ芸術文化創造会議 のWEBサイト

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2017年の活動レポート

公開日時 : 2017年12月15日

本稿の目的・趣旨

「ひめじ芸術文化創造会議」(以下、当会議)では、6月末の発足以来、現在までに12回の定例座談会(隔週水曜日の夜)と3回の経過報告会を開催してきました。特に、姫路市が『キャスティ21イベントゾーン』に建設を計画している「(仮称)姫路市文化コンベンションセンター」(以下、新施設)について関心を持つ方々にお集まりいただくことで、活発な議論が交わされています。

本稿は、発足以来の流れを整理してお伝えすることで、皆さまに当会議について正しくご理解いただくことを目的としています。



当会議について

設立の経緯

当会議の発足は2017年5月の半ば。新施設の設計案(2017年3月版)に多くの問題点を見出した今里あけみ市議や「播磨ソフィアの会」・「日本舞踊 一の会(花柳流ちとせ会)」の方々が発起人となり、計画の見直しを求める署名活動の運営主体として発足しました。署名の趣旨は、「2000席という大劇場のキャパシティが適切だろうか」「楽屋や通路の配置はどうなっているのか」などの疑問点について、市の計画を一時的に止めてでも、街の文化人・文化団体・関係者を交えた議論を十分に行う必要があるではなかろうか…ということでした。



座談会の始まり

しかし、署名活動を始めるにあたって、発起人やコア賛同者としてビラに名を連ねる文化人を募ろうとしましたが、ほとんど集めることができませんでした。むしろ、「●●さんが参加されるなら、私は参加しません」という風な断りすらあったと聞いています。結局、署名活動は、発起人やコア賛同者を掲載しないまま行うことになりました。

この時、私たちは、文化ジャンルの壁や派閥の壁に隔てられ、街の文化人・文化団体が大きくまとまることのできない実態に、あらためて大きな危機感を覚えたのです。「こんなことでは、行政に計画の見直しを迫るような、大きなことはできないのではないか。むしろ、劇場施設を良くすることよりも、街の文化人・文化団体が一堂に会する事ができるテーブルを1つ作ることが、私たちの喫緊の課題なのではないだろうか」と考えました。

まずは「新施設について効果的な批判を行うためには、私たちがまず勉強する必要がある」という趣旨で、文化人だけでなく、日頃は舞台芸術にはあまり関心のない市民にも声をかけ、集まってくださった10人ほどで始まったのが定例の座談会です。



座談会で行われた議論

第1〜5回の座談会について(市民・行政・財団それぞれの目線)

初期の5回は、新施設に対して様々な立場から意見交換を行いました。第1・3・5回は一般市民や舞台関係者が新施設に対して抱いている思いや意見・懸念などを自由にディスカッションしました。また第2・4回では、行政側の担当者や姫路市文化国際交流財団(以下、財団)の方からそれぞれの意図や目指すところについて教えていただきました。

これによって、わかったことが幾つかあります。

ひとつ目は、「行政が市民の声を無視している」という風聞が間違いであること。「市政出前講座」の形でお招きした第2回と第8回のみならず、それ以外の回にも足繁く担当者が参加されました。その都度、進捗状況を教えていただいたり、参加者からの質問に答えていただいたり…時には「いまこんなことを考えているのですが、どう思われますか?」と参加者に意見を求められたこともあります。行政と市民の間で対話がうまく行かなかった要因は、市民の側にルサンチマンに基づいた被害者意識があったせいかもしれません。(→第2・4・8回)

そうすると「市民が行政に対して上手に声を伝えること」の必要性がわかりました。これがふたつ目です。当会議の設立目的にも合致するところですが、私たち市民の側(特に舞台芸術に関わる人々)に「どのような活動(公演・興行)を行うつもりがあるのか」や「そのためにどういうものを必要としているのか」ということをまずは(市民間のコンセンサスとともに)伝えるべきではないでしょうか。当会議でも、具体的な施設の設計や設備について「これをこうしてくれ」と要求するよりは、「こういうことがやりたい(こういう街にしたい)が、今度の施設はそれに相応しいだろうか」という問いかけを行うようになりました。(→第5・8回)

みっつ目は「行政や財団が十分に機能できるように、市民がサポートする必要がある」ということです。特に、財団は求められる役割に比して、人手(というより人件費を含めた予算)が深刻に不足しているようでした。これについては、「税金はできるだけ安く、サービスはできるだけ充実を!」という私たちの意識も改める必要があるのではないでしょうか。(→第4回)

最後に「市民は足るを知る必要がある」ということ。そもそも「完璧な施設を望むこと」が間違っているのです。つまり、たとえどれほど高機能な施設ができても、私たち市民がその短所だけを見てクレームを言い続ける限り「市民が良いと感じる」施設にはなりえないのです。また「どうせ姫路はだめに決まっている」という自虐都市感や「あいつら(自分の属さない集団)が勝手にやったことだから、自分には関係ない」という非帰属意識(a sense of un-belonging)も同根の課題だと考えています。(→第4回)



第6〜8回の座談会について(都市計画と文化)

9月は、文化都市政策の専門家である龍谷大学研究員の立花晃氏から、「都市戦略としての文化政策」という観点から「創造都市論」を学びました。これは第5回で話題が上がった「誰にとって良い施設にすべきか」というテーマを敷衍したものです。つまり、施設の使い勝手のことばかりでなく、「施設に直接関わりのない人々にとっても有意義な施設」について、私たちは考えるようになりました。(→第6・7回)

また、立花氏からは、単に今日の社会を見るだけではなく、AI(人工知能)の発達やBI(ベーシック・インカム)の導入によって大きく変化する可能性を秘めた将来の街の在り方についても十分に考慮する必要性について警鐘を受けました。(彼はその後の全ての座談会に参加し、顧問的立場から様々な提案をしてくださっています)

その上で、第8回は再び「市政出前講座」でした。第2回座談会以来の3ヶ月間での進捗を行政の担当者に伺いました。この頃から、単なる「使い勝手」や「目先の採算」についてではなく、施設が体現すべき理念や施設によって街の在り方がどのように変わるべきか…などについての話し合いも始まったのです。(→第8回)



第9〜11回の座談会について(経済・産業と播磨の連携)

劇場施設についての関心が都市政策に拡がった一方、これまで置き去りになってきたコンベンション施設としての側面についても話し合いを行いました。創造都市論を始めとした昨今の都市計画の中では、経済・産業と文化・芸術が連動しなくてはなりません。そういう意味では、劇場施設とコンベンション施設が併設された新施設は、うまく機能させることができれば極めて画期的な施設となりうるのではないか、と考えました。

その上で、過去にコンベンションイベントを行った実績のある方々のご意見を伺ったところ、「姫路市という枠組みから播磨圏域に視野を拡げる必要がある」という重要な指摘を受けました。そうすると、姫路市の中だけで見た場合には「成長モデルを前提とした(現実に即していない)計画に基づいている」と批判を受ける新施設が、播磨圏域の中では重要な役割を担う可能性が浮上してきます。(→第10回)

また、芸術・文化に属する人々に比べて、経済・産業に関わる人のほうが科学的根拠に基づいた(エビデンス・ベースの)、かつ具体的な意見を持っていることも浮き彫りになりました。この点は、芸術・文化に属する人々が十分に反省せねばならないところです。



会議の課題や反省点

署名活動に協力していただいた方々へのフォロー

発足当初の署名活動に対して、その後の報告(方向性が変わったことを含めて)が後回しになってしまった経緯があります。(来年、市民フォーラムを開催できるようであればその告知とも合わせて)簡単な報告を行う必要がありそうです。



参加者の変化とモチベーション

座談会を始めた頃は「行政に一言文句を言ってやりたい」と思って参加される方が多かったようですが、回が進むにつれて「私たち自身の反省と将来への研究」の趣きが濃くなりました。それにともなって、参加者の顔ぶれも随分変わったように思えます。そのこと自体は、必ずしも悪いことではありませんが、「雑多な意見を自由に発言できる場」と「少し専門的に文化政策を考える場」をそれぞれに設け、連動させるような在り方に変えてゆく事ができれば、今後はより効果的な提案や研究が行えるかもしれません。

ただし、巷の「まちづくり会議」にありがちな、「議論のための議論」や「聞き心地の良い議論」ではなく、根拠(エビデンス)のある提言をすることが、この会議の目指すところです。



曖昧な表現

当会議は、新施設の是非という近視眼的な目的に終始するのではなく、姫路・播磨の文化面での活性という中・長期的な目標を持っています。ですから、活動は後世の検証に耐えるようにしておかねばならないと考えています。そのために、座談会の記録ノートをWEBで公開しているのですが、必ずしも整理された記録となっているわけではありません。(本稿は、その整理を行う試みの一つです。)

特に初期の座談会では雑多な意見を拾い上げました。その為、曖昧な表現になりがちで、議論としての深度が深まりにくい一因となりました。例えば、「市民」や「人々」「文化人」という表現がそれぞれ誰を指すのか、「姫路市に住民票をおいている人」のことか「周辺の自治体に住んでいて、姫路で働いている人」は含まないのか…など。

過去の記録ノートを訂正することはありませんが、今後はこのあたりの表現を厳密にしていくことで、議論のディテールをはっきりさせることができると考えています。



来年以降に向けて

新施設の具体的な活用方法

施設の計画が次第に明確になってきましたので、街のクリエイティブな人々とも協力しながら、具体的な活用についても計画をしていきたいと考えています。



市民フォーラムの開催

当会議について広く知っていただき、協力してくださる方々を増やすためにも、市民フォーラム(公開討論会)の開催を目指しています。



学会発表

座談会・市民フォーラムの過程と結果をまとめたものを査読付き論文として学会誌などに送ることも検討しています。

文責
月ヶ瀬 悠次郎