実施レポート/「ぷちたぷち」ミニ講演への出演

公開日時 : 2024年01月23日

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文:月ヶ瀬悠次郎 月ヶ瀬悠次郎

2024年1月22日(月)、まちのぷちたぷち(姫路市呉服町/認定NPO法人コムサロン21内)において"ひきこもり状態の方"を対象とした講演『デザイナーとかやってる人が自分語りするのを聞いて、みんなで質問したり突っ込んだりしながらちょびっとだけ人生の参考にする会』が開催され、当会の月ヶ瀬悠次郎代表が講師を努めた。

2024年1月22日(月)、まちのぷちたぷち(姫路市呉服町/認定NPO法人コムサロン21内)において"ひきこもり状態の方"を対象とした講演『デザイナーとかやってる人が自分語りするのを聞いて、みんなで質問したり突っ込んだりしながらちょびっとだけ人生の参考にする会』が開催され、当会の月ヶ瀬悠次郎代表が講師を努めた。芳賀由紀事務局長・上田成昭幹事・木村章幹事がアシスタントとして参加した。

講演の参加を呼びかけるチラシと配布資料
講演の参加を呼びかけるチラシと配布資料

本講演は、認定特定非営利活動法人コムサロン21が運営する姫路市ひきこもり支援推進事業「ぷちたぷち」で行われているひきこもり状態の方の社会復帰をサポートする事業の一環で開催された。ぷちたぷち利用者の間でイラストレーションやグラフィックデザインに関心のある方が増えてきたことを受け、将来の職業選択のひとつとするために実務に携わっている人物の生の声を聞くことを目的として行われたものである。

講師をつとめた月ヶ瀬代表
講師をつとめた月ヶ瀬代表

約十人の参加者は、会社に所属せずにフリーランスとして個人で仕事をすることのメリット・デメリットや、トラブルや悪評への対応方法など様々なテーマで質問をおこなった。

なお当日は、当会からも講師派遣を行っている体験型講習として「習字体験講座(講師:木村章)」が開催され、本講演に先立って行われた。


月ヶ瀬悠次郎代表からのコメント

姫路市ひきこもり支援推進事業「ぷちたぷち」の企画には3年前から当会で協力しています。

それは「文化芸術の社会包摂機能」という観点にも合致する活動だと考えているからです。社会包摂というのは私たち芸文会議と少しご縁のある衛紀生氏らが長年訴えてきた、社会的弱者や孤立しやすい人々を社会に取り込み支え合おうとする考え方のこと。たとえば、文化芸術の精神的な豊かさに触れてもらうことで若者を中心に犯罪率を低下させることや引きこもって孤立してしまう人が社会復帰するきっかけになることを目指すというようなものです。

「文化芸術は腹の膨れない〝きれいなお荷物〟であってよいのか」というのは、設立当初から私たちが関心を寄せているテーマのひとつです。それは、公金(助成金)を使っておきながら「関係者が楽しいひと時を過ごしました」で済ませる文化活動で良いのかということでもあります。仮に、ある文化活動が社会包摂の役割を果たし犯罪率を低下させるのであれば、不要になった防犯の予算を芸術振興に当てられるかも知れません。あるいは、引きこもり者の社会復帰や就労支援に当てられる福祉予算も同様です。犯罪にしても引きこもりにしても「そうならないに越したことはない」に違いはありませんし、世の中に楽しいことがたくさんあれば良いと決まっています。

「文化的ノブレス・オブリージュ」というと偉そうな表現に聞こえるかも知れませんが、たまたまそういう文化的な知識や技術を持ち、それを発揮できる環境にいる私たちは、そうでない人々のためにその一部を使う責任があるのだろうと考えています。

そういう次第で、「ぷちたぷち」の文化講座の企画の相談を受けたときには二つ返事でOKしたと記憶しています。

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さて、これまでに私たちのメンバーの得意分野として「写真撮影」「音楽(ギター&ウクレレ)」「朗読体験」「パステル画」「習字・書き初め体験」の講座を担当してきましたが、今回は「そろそろ月ヶ瀬も何かやれ」という空気になっていた中でのありがたいご指名でした。「利用者の中に絵を描くことやパソコンを使って何かを作ったりすることに関心がある人が増えてきたが、『ぷちたぷち』スタッフでは専門的な質問には答えられない。フリーランスのデザイナーとしての経験や実際の仕事を紹介しながら、質問に答えるような講演はできないか?」というようなご相談だったと思います。理屈っぽくて説教がましい私の話を聞きたいとは、なんと奇特なご依頼でしょう。もちろんすぐに了承しました。

話したいことの多さに比して与えられた時間はわずかですし、参加される方々の聞きたいことと合致している必要もあります。打ち合わせを通じて「話すことができそうなこと」のすべてをチラシとして提示することにしました。チラシは私が制作したものですが「このチラシを見たら話を聞かなくてもだいたい分かるんじゃないかな」と思うほど、話題のすべてを事前にお伝えすることにしました。これは冗長な講演タイトル(これも私がつけました)と同じで、「そこに参加すると何があるのか、自分はどのように振る舞えば良いのかということを事前に知らせることで、参加への心理的ハードルを下げる」という目的があります。

急ごしらえではあるけれども、配布パンフレットも作りました。短い時間では語り尽くせないであろう細々としたことをあとからゆっくり読めるように、というものですが、実は他にも目的があります。それは、私の話を聞くのに飽きたり疲れたりしたときに手元にパンフレットがあれば自然に耳目を逸らすことができるということです。もちろん、退屈しないように面白いお話をするのが役目ではありますが、どんなに面白いプロの芝居でも30分や1時間にわたって集中して見聞きし続けることができる人はかなり珍しいと思います。「しんどかったら気にせず、よそ見していても良いよ」という私なりのメッセージでもありました。

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当日の私がお話しする時間は30分そこそこという短い時間でしたから、かなり端折りながらまくし立てるように「デザイナーになった経緯」についてお伝えした後で「フリーランスの大変さ」についてお話ししました。祖父の死に起因する不登校と「死生観」倫理・哲学への傾倒、せつと方向転換の繰り返しでたどり着いた「(グラフィック)デザイナー」という役割のこと、など。

雑多な話の中で省いたものもありますが、明確にメッセージとしてお伝えしたかったのは《頼まれごとを安易に断ってはいけない》ということ。何でもかんでも安請け合いをしていては軽んじられることもあるでしょうし、なにより身が持たないのですが、それでも「ぜひあなたに頼みたい」と言われたことを断ってしまうと二度目はないのです。自分には荷が重いことであっても、たとえ不完全なものしか返せなかったとしても、してあげられる最大のことを返すよう努めることが信頼につながります。他の人には断られたけれどこの人なら受けてくれるかも知れない……という頼みの綱、心理的な拠り所であろうと努めることが大切です。

「ぷちたぷち」は利用者の居場所づくりをテーマとしている活動ですが、仕事とはまさに誰かの精神的な居場所になるということに他なりません。社会の中に居場所を見つけられずに孤立してしまう人が多くいますが、実のところ私たちは互いに居場所になり合いながら社会を形成していて、誰かの居場所であろうとすることと自分の居場所を見つけることとは同じことなのだと私は考えています。

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会の終わりでは、実際の制作事例を見ていただきながら自由に質問していただきました。クレーム対応の方法や関係者との調整のコツなどについては、「むしろ私が知りたいな……」と内心思いつつお答えしました。

参加者からの質問や反応で気になったのは、どことなく皆さんが0-100で物事を考えている印象だったこと。デザイナーになる/ならないにしても然り。クレームや作品に対する悪評などにしても然り。クレームに対する態度には「非常に気にする」と「まったく無関心でいる」の間に無限の段階(グラデーション)がありますから、「自分の中で確固たる自信があって説得するだけの根拠があるときには通すかもしれないし、そうでないときには素直に受け入れるかもしれない。それくらいの豪胆さと柔軟さを同時に持っておいてはどうだろうか」というようなことをお答えしました。あるいは、「完全に独立した個人デザイナーとして生きる」と「そういうことはしない」の間に、例えば「ショップ店員しながら店のチラシやポップを作れる人として重宝がられる」というやり方もある……というようなこともお伝えできたかと思います。

限られた時間の中でどこまでお応えできたかはわかりませんが、また折に触れて質問していただければ……と締めくくって会を終えました。

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そろそろ「後進の育成」ということも当たり前のこととして取り組まなければならない歳になったことの責任を肌で感じつつ、自らの半生と現在を省みる良い機会を与えていただたこと、そして、頼りになる後輩の卵たちに巡り合わせてくださったことを「ぷちたぷち」の皆さんに心から感謝しつつ、ここまでで私からの報告といたします。


出席者(敬称略)
講師/月ヶ瀬悠次郎


芳賀由紀
上田成昭
木村章
他、一般参加者
記事協力
姫路市ひきこもり支援推進事業「ぷちたぷち」

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