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ひめじ芸術文化創造会議

公開日時 : 2018年07月25日

「ふるさとづくり青年隊」事業の一環として行われた熊本視察について、代表・月ヶ瀬よりコラムがあがりました。

謝辞

この度の視察旅行は、当会議の副代表である立花君の提案のもと、公益財団法人 兵庫県青少年本部の「ふるさとづくり青年隊」事業の一環として行われた。貴重な機会を与えてくれた両氏・団体には、当会議に対する日頃の多大なる貢献・献身も含め、あらためて感謝の言葉を述べたい。

また、現地関係者との実り多い面会の実現にご尽力くださった多くの方々にも、同様に謝意を伝えたい。



熊本市を訪れて


市のシンボルの1つ、加藤清正公像(熊本城前)
市のシンボルの1つ、加藤清正公像(熊本城前)

さて、周知の通り熊本市は地理的には九州の中心にある。熊本県の県庁所在地でもある本市は九州全体の経済・文化・交通などの要衝だ。(震災の爪痕が未だ癒えぬ)熊本城を擁した歴史ある城下町であり、海と陸を結ぶ地でもある。また、昨今は周辺の自治体と連携中枢都市圏を形成するなど、何かと姫路市との共通点も多い都市だ。

その熊本市の中心部において都市の再開発が進められており、大型の劇場・コンベンション複合施設が建設中。この施設は、過大と評されることの多い姫路市の施設計画と比べても、さらに大規模なものだという。建設が始まったばかりとはいえ、姫路市よりおよそ1年先んじて計画が進行している点から言っても、学ぶべき点や得られるフィードバックは多いと感じていた。

実際に訪れて街を散策し、熊本城ホールを含めた中心市街地再開発計画に携わる市職員の方々や街の人々と交流した結果、私たち芸文会議が果たすべき役割が少しずつ見えてきたように思う。



事前調査

今回の調査にあたって、熊本市がWEBサイトに公開している資料((仮称)熊本城ホール運営戦略検討報告書など)は事前に通読していた。その調査・研究は姫路市より多くの情報に基づいて行われており、県庁所在地/政令指定都市はさすがに充実しているな、と感じた。しかし一方で、懇話会の熱量は姫路市と同程度。やはり市民的な議論が十分とは言えないように見えた。

また当会議の顧問である芳賀氏からは、観光都市としての熊本市・姫路市の違いや史跡としての熊本城・姫路城の違いについて幾つかのアイデアを得ていた。例えば、熊本市は「(官民ともに)観光都市・観光地としての割り切り」が進んでいる一方で「文化財の尊重」という面では姫路市が慎重だという。あるいは、市民生活に城・史跡が溶け込んでいる点でも、姫路市とは様子が違うのだそうだ。



熊本市職員への印象


熊本市役所にて
熊本市役所にて

旅の目的の中心は、熊本市職員とのディスカッションであった。実際、熊本市における行政の仕事ぶりは素晴らしいものに思えた。姫路市よりスケジュールが1年進んでいるとはいえ、準備されている資料は(市民向けの案内パンフレットも含めて)比較にならないほど充実している。

しかし、私が一番驚いたのは「この仕事が、行政と市民の白熱した議論や協力の元で成し遂げられた物ではない」ということである。彼らにとって、この再開発計画は街の命運をかけた一大プロジェクトではない。誤解のないように申し添えれば、この企画には多くの人の熱意や努力が込められているに違いないし、熊本市の職員は(姫路市の職員と同じく)非常に真面目で勤勉な方々だった。我々のような得体の知れない田舎者の無礼な質問にも丁寧に答えてくださった点だけを見ても、その誠実さは疑う余地もない。ただ、この再開発計画について「いつものように熱心に仕事をしているだけ」というような空気を感じたことは確かだ。

この規模の計画がほとんど「片手間」でできてしまう辺り、県庁所在地にして政令指定都市の器の大きさを見せつけられた思いがした。



熊本の街並み、市民への印象

この「片手間感」は市職員だけではない。熊本市民にとっても、再開発計画は「おらが村の一大事」ではないようだ。市職員とのディスカッションでも「新施設・再開発について市民からの熱心な意見提案や反対活動はほとんどない」ということだった。「我らの偉大な加藤清正公に任せておけば安心」という城下町気質がそうさせているのかは分からないが、良くも悪くも積極的に行政に介入しようという市民は少ないようだ。それでも十分にうまく行くのが、大都市なのかもしれない。


熊本の街並み
熊本の街並み

確かに熊本の街は、随分と賑やかだった。熊本城下の東西500m・南北1km程度の範囲内に非常にコンパクトに纏まった市街地は、新幹線が止まるメインの鉄道駅からは少し離れていることで賑わいをうまく取りまとめることができているようだ。熊本市職員によれば「懸念されたほど九州新幹線開通に伴うストロー効果は起きていない」という。少し古いデータだが、JR博多駅ビル利用状況調査(公益財団法人 地方経済総合研究所)でも示されているとおりだ。

ちなみに福岡市は、(熊本市とは異なり)市街地・観光エリアを広範囲に分散させることで滞在型観光を実現している。地理的・歴史的な背景も手伝って、観光都市・福岡は成功しているように見えた。翻って、メインの鉄道駅の近くにコンパクトシティを作っているのが姫路市の街づくりである。福岡市や熊本市のそれとの違いについては、今後も興味深く見ていきたい。

ともかく、熊本城復旧への情熱を別にすれば、街づくりに対する市民の意識は高くないようだった。商店主や通行人にインタビューを行っても、問われれば賛否をそれなりに答えるが「よくぞ聞いてくれました」と唾を飛ばす市民とは出会うことがなかった。



姫路市を振り返って

熊本市ほどではないにせよ、「それでも十分うまく行ってきた」のは私たちの姫路市も同じかも知れない。

それは、芸文会議を始めた割と早い時点で感じていたことの1つだ。「市民が積極的に政治介入をしなくても(むしろ、余計な邪魔をしないほうが)、市政はうまく進むのではないか」「専門家である市職員に任せておくほうが良いのではないか」という思いを、私は心の底の部分にずっと感じている。

とはいえ、市民の政治に対する関心が民主主義社会の健全さを表す指針であることを、私は知っている。さしあたっては、優秀な市職員の働きに感謝しつつ、少しでも適切な方法で介入できる市民であることを心がけたいと思う。これは今回の旅で特に強く感じた思いの1つだ。



雑感

参加青年の橋本君について

ほとんど全ての旅程で同伴したこともあり、彼とは見たもの・感じたものを常に共有した。先日、彼がまとめてくれたレポートからもその様子がわかるが、彼個人としても多く感じるところがあったようだ。本企画の第一義は「ふるさとづくり青年隊」隊員である彼の学習・成長である。その点については十分に嚮導者としての役割を果たせたと実感している。



熊本市民の愛城心


修復途上の熊本城
修復途上の熊本城

先にも述べたとおり、街づくり(あるいは街)に対する熊本市民の関心の大半は熊本城復旧に注がれている。件の再開発計画についても「発展の前に、まず復興を完了させて欲しい」という声があがっていることは、事前調査の通り、現地でも少なからず聞くことができた。

芳賀氏からの指摘の通り、熊本城は熊本市民の生活の場に非常に一体化しており、それだけに震災からの復興にかける市民の情熱は並ならぬものがあるのだろう。先だって姫路城が修復工事のために2年ほど姿を隠したことがあるが、その際の姫路市民の(予想外な程の)消沈ぶりを思えば、熊本市民の情熱の質は非常に理解できるものだ。

街の飲食店や商店でも「他所から観光に来た」といえば歓迎されたが、特に飲み屋の隣席者からは「ありがとう、復興予算を落としに来てくれて!いっぱい飲んで食べて、お金使っていってね!」という言葉はその象徴だったろう。熊本市民は経済をよく理解しているな、と思った。



神風連(敬神党)について


桜山神社(神風連資料館)
桜山神社(神風連資料館)

旅の本来の趣旨とは異なるが、私の友人の勧めで神風連関連の史跡を訪れた。彼は神風連の末裔であり、熊本大学の近所にある神風連資料館は彼の生家である。

資料館の管理人と、明治初期の混乱と若者たちの生き様について有意義な交流ができた。このことは、また別の機会に述べたい。

文責
月ヶ瀬 悠次郎

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