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ひめじ芸術文化創造会議

公開日時 : 2018年06月18日

2018年5月30日[水] イーグレ姫路にて開催されました。新たなまちづくり手法であるプレイスメイキングについてご講演いただいた後、会場からの質疑応答を行いました。プレイスメイキングとは「都市空間において愛着や居心地の良さといった心理的価値を伴った公共的空間を創出するボトムアップ型の計画概念」とされ、エリアマネジメントの考え方を推し進めた新たな手法として注目されています。この手法を用いて、大阪を拠点にまちづくりに関するコンサルタント業務や各地の都市計画にまつわる政策策定に数多く関わってこられた有限会社ハートビートプランの園田聡氏にご講演いただきました。

園田聡氏の講演内容(要約)

有限会社ハートビートプランについて

有限会社ハートビートプラン(以下HBP)は大阪に拠点を置くコンサル事務所です。

これまでに数多くのまちづくりコンサルティングやWS、また都市の公共空間におけるパブリックライフに関する調査などを行ってきました。(例:大阪『北浜テラス』川沿い街づくり、山口県長門市の温泉街の再生など)



プレイスメイキングの考え方

プレイスメイキングとは、元々アメリカのNPOが開発した「パブリックライフから都市デザインを考える」場所作りの手法のひとつです。

従来型の手法(公共空間のハード整備)では、やがて人が利用しない空間になってしまうという問題が多く指摘されています。

プレイスメイキング手法では《形態+活動+印象=居場所》と捉え、「どのように人々が使うか」「人々にとってどのような場所にするか」を重要視しながら都市デザインを行います。



HBPによるプレイスメイキング手法を用いた都市再生・空間活用の事例

1.大阪府中之島『水都大阪』(マネジメント主体型)

これは、かつて交易の中心であった中之島漁港や中央卸売市場エリアの合流地点である中之島ゲートの空き地をどのように活用すべきか、という課題への取り組みです。

公共の土地を利用する場合、複数の法律(この場合は河川法や港湾整備法など)に適合させなければなりません。このことが民間の利用提案にとってはクリアしにくいハードルとなっていました。

そこで、各セクションの制度管理を中間支援組織として「水都大阪パートナーズ」を立ち上げることで、法的な手続きを一本化することを行いました。

そして、3段階のプロセスで4年間の土地活用を任せ、事業を進めることに成功したのです。
<Stage1:イベント、拠点づくり>
<Stage2:一時的に店舗を出店(実験)>
<Stage3:パーマネントな出店計画へ>

HBPでは民間の事業アイディアと行政の法制度の通訳、橋渡し段階を行いこれらを通じて不利な土地の活用、行政の苦手なビジネス的側面のサポートを行いました。



2.愛知県豊田市の二つの事例

豊田駅前の整備計画は「広場の歩行者空間としての活用」が課題となっていました。

HBPでは「いかにこの空間を利用し、賑わいのある空間を作り出すか」に主眼をおいたデザインの提案を行いました。そのため、「つかう」と「つくる」の両輪で進めることが重要であると考えたHBPは、まず疎かになりがちな「つかう」から着手しました。

■ あそべるとよたPJ(事業公募型)

大規模再開発が予定されていた駅からのペデストリアンデッキと広場について、「人々がこの場所に何を求めているのか」を調査しました。

1年目は、バーやカフェなどの出店を行いました。1ヶ月間の期間を区切った社会実験でしたが、好評を受け3ヶ月に延長されたのです。2年目は半年、3年目は半年超の実験を行いました。

重要なことは、出店の権利と引き換えに植栽などの管理やクレームの対応を出店者が行う覚書を行政との間で交わしたことです。これによって、利用者と出店者を心理的につなぎ、共に空間を作っていく意識をもたらしました。また、行政にとっても、クレーム処理や植栽管理などの業務コストがかからないメリットがあり、受け入れやすかったようです。

■ 新豊田EAST GATE PARK(アドプト型)

地元の市民団体によって公共空間を管理・利用するプロジェクトです。

まず、地元の森林組合によってベンチやテーブル、スケボー遊戯場などが設けられ、公共空間に居場所が作り出されました。これによって「コーヒーを飲む」「読書を楽しむ」「スポーツを楽しむ」…など、どこにどのようなアクティビティがあれば良いのかを明らかにしました。



プレイスメイキングの成果指標

プレイスメイキングでは、「そこを訪れた人の数」ではなく「アクティビティの多様性」を重視します。来訪者数ではなく(1人あたりの)滞留時間を延ばすことで、「街なかに人がいる風景」を創出します。

テーマ・コミュニティを構築し、同種のアクティビティを集約し、街にいる人の総数は変わらなくとも、ある重要な場所に集中させる仕掛け作りを行うことで賑わいとすることを狙うのです。



プレイス調査の活用

ニーズの把握と計画への反映

「どの場所に、どのようなアクティビティが求められているのか」を把握し、適切な都市デザインを作ることができます。また、そのプロセス自体を市民・行政と共有することで、行政の計画にも反映させやすくなります。



循環・継続型の投資サイクル

公共空間の利用を考えるときに重要な視点の1つに、「有料空間(長時間滞在)と無料空間(短時間滞在)のバランス」があります。有料空間で得られた利益を、無料空間に活用することで、民間の空間運営者が得た資金を公共空間に再投資できるサイクルを生み出します。



居場所づくり

「すべての場所にすべての層(年齢・性別・趣味…)がいる必要はない」と割り切ることも重要です。それぞれの場所でそれぞれの人が居やすいように設計し「街のどこかには、その人の目的に適った居場所が必ずある」という状況を作ることで、街への愛着やUターンのきっかけを生み出します。



従来の都市計画との違い(4つのフェイズ)

通常の都市計画は<ハード計画→整備→管理・制度設計→活用方法の検討→利用者>というプロセスによって行われます。そのため、しばしば実際の利用者にとっては使いにくいものになってしまうことがあります。

プレイスメイキングでは<利用者のニーズ→活用方法の検討→担い手の発掘・育成→運営と空間(施設)の最適化>というプロセスで行われます。そのため、利用者のニーズ(街における存在価値)に適った施設を計画することができます。



質疑応答

都市計画と逆の流れでなされるというプレイスメイキングの、まちづくりとの違いとは?

そもそもまちづくりについて明確な定義があるわけではありませんが、一般に行われるまちづくりでは、この街はこうあるべきだというのが先にあり、計画します。一方、プレイスメイキングでは問題意識が先にあり、何が必要かということから遡ります。その際、まちの現状を把握し、エビデンスをもとにロジカルに行うという点が大きく異なる部分です。

HBPで調査依頼を受ける際、どのように収益を見込むのか、実施対象地はどのように選んでいるのか?

我々の考え方としては、まず“全ての人が専門家であり、対等な立場である”と思っています。そのとき、我々はたまたま制度や計画の専門家だったということになります。そのため、地元のことは地元に住んでいる人たちに聞き、制度のことは行政に聞くのが一番です。具体的な場所の選定については、収益性モデルから把握することが可能です。例えば、乗降客数や通行者数、生活動線になっているなど、適正モデルで計量します。しかしそれ以上の、地元の人にしかわからないところについては地元の人々から調査し、場所だけでなく、何が適しているかを把握します。仮にそこがリスクの高いところである場合、市の公募に頼るのではなく、自分の足で現場を調査(実際にバーやカフェに飲みに行って地元住民との関係性を築きながら)します。

豊田の事例では一ヶ月の実験期間中に、実際に運営をされたという事について、(事例では9箇所ということだったが)全ての箇所を調査されたのか、どれだけのスタッフ、人員でやられているのか。

行政の申し込みによってどこで何を行っているのかについては把握しています。各場所でのアクティビティ(実践)の把握については、実験期間は春夏秋冬それぞれ、各箇所朝8時半から夜8時半まで12時間行いました。基本的には私が全て現地に行って調査を行っています。そしてその都度例えば何人が広場にいて、何をしているのか、等を把握します。人員が足りない場合は学生のアルバイトを雇って行います。もともと調査に割ける人員も少なく、かなり大変でしたが、行政への説明資料としてはかなり説得力を持ちます。また、こうして地元に入ることを通じて地元の方ともコミュニケーションが取れるという利点もあります。

プレイスメイキングという手法や、エリアマネジメント(札幌、富山など)を通じて公共空間を賑わいの場としていく取り組みは数多くあるが、一方で、それができるのは行政の積極性や民間のやる気によるのでは?つまり地域によってできる、できないに差が出るのでは?もしくはどういった場所でも取り入れることは可能なのか?

基本的には人と人との関係作りなので、人口の規模等にかかわらずできるはずだと思っています。まずは小さいことからでもやってみる、という事が重要です。公共空間の施設の利用という点では、行政が公募して進めているということで、ある程度認めてもらえているということがあります。事業者が、地元のためにははじめは赤字でもやってみたいというチャレンジをし、盛り上げている姿勢を見ていると、次第に地元の見方も変わってきます。その際、そうしたいろいろな視点や意見を受け止める事もHBPの仕事だと思っています。

4つのフェイズを通じて、従来の都市計画とは逆のプロセスをたどり、公共空間の利用を進めるということだったが、HBPとしては、どこまで責任を持ち、見守るのか。契約が切れたところまでなのか、あるいは長期的、追加調査的に見守るのか。

基本的には契約期間が完了するまでになります。なので、逆にその期間で道筋を付け、我々が居なくても進んでいけるように、たとえスケジュール的にきつくとも計画に盛り込みます。基本的には赤字とはいわないまでも、我々も資金がいつも十分なわけではありません。場合によっては通うよりも短期間現地に居住することもあります。最終的には、我々のようなよそ者がいつまでも居るべきではないので、当然居なくなることを前提に、居なくなっても回る仕組みを作る事を目指します。その間に誰と組めばいいのか、どの場所でやればいいのか、をできるだけ明らかにしておきます。これは契約書に書いていないことだとしても、そこまでやっていく努力はします。



まとめ

今回の講演でお話いただいたプレイスメイキングの考え方は、今後我々が姫路で進めていこうとしているまちづくりとも親和性が高いものであり、実際の議論にも役立てていきたいと思います。

あるいは、実際にHBPと一緒にお仕事をする日が来るかもしれません。

そのためにも、今後の芸文会議の議論を通じて、我々姫路に暮らす住人自身がきちんと姫路の現状と課題、未来像を描けるように議論していくことが必要だと改めて感じました。

この講演は「ふるさとづくり青年隊」事業の一環として行われ、経費の一部に助成金を使用しています。

文責
立花 晃

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