意見表明/国連サイバー犯罪条約に関して

公開日時/2025年08月09日

意見表明/国連サイバー犯罪条約に関して - メインビジュアル

文:月ヶ瀬悠次郎 月ヶ瀬悠次郎

私たちひめじ芸術文化創造会議は、現在採択が進められている新たな「国連サイバー犯罪条約」について、日本政府が批准に先立ち、文化的多様性と表現の自由、学術研究の自律性を守るために、今一度十分な検討を行うことを求めます。

私たちひめじ芸術文化創造会議は、現在採択が進められている新たな「国連サイバー犯罪条約」について、日本政府が批准に先立ち、文化的多様性と表現の自由、学術研究の自律性を守るために、今一度十分な検討を行うことを求めます。

サイバー空間の安全確保と国際的な犯罪対策の必要性が共有され、その取り組みが進められることは非常に重要なことです。しかしながら、本条約は文化的多様性や表現の自由に影響を及ぼす可能性が指摘されています。

例えば、未成年者の性的搾取防止を目的とした条項が、解釈によっては歴史的・文化的作品や教育的・芸術的表現まで規制対象に含められると懸念されています。また、「社会秩序を乱す情報」といった広範かつ曖昧な概念も、各国の価値観や政治状況によっては文化や歴史に根ざした表現を制限する口実となりかねません。

私たちは、安全と自由の両立こそが国際社会全体の責任であると考えます。批准にあたっては、その両立を担保する十分な議論と安全策の確立を強く求めます。

2025年8月9日 ひめじ芸術文化創造会議



付記:文化の橋を守るために

文化や学問は、いつの時代も、その時の考え方や価値観とぶつかり合いながら発展してきました。たとえば『源氏物語』や『平家物語』には、今では問題とされる未成年者との関係や暴力の場面があります。『ロミオとジュリエット』にも同じような表現が見られます。また、『レ・ミゼラブル』には、国や法律、道徳に逆らう人物が登場します。これらは、賛否はあっても、当時の社会や人々の考え方を知るための大切な記録です。もしこうした作品が「有害」や「秩序を乱す」とされ、読むことさえ禁止されれば、私たちは過去と現在をつなぐ大切な文化の橋を自分たちで壊すことになります。

歴史を学ぶための資料にも同じことがいえます。ナチス・ドイツの独裁者ヒトラーが書いた『我が闘争』は、国によっては長く禁止されてきました。ドイツやオーストリアでは今も注釈付きの特別版しか出せませんが、日本では以前から書店に並び、誰でも読むことができます。それは、その思想を肯定し広めるためではなく、歴史を正しく理解し、二度と同じ過ちをくり返さないためです。このように、たとえ危険な内容を含む本であっても、学びのために触れる自由は、社会が成長するうえで欠かせません。

問題は、こうした自由が、国際的な「安全」や「道徳」という言葉のもとに失われる危険があることです。大きな影響力を持つ国の価値観が世界の基準となれば、小さな国や地域の文化は不利な立場に置かれます。国際会議で多数決をとれば、少数派の文化や表現は簡単に押し流されてしまいます。文化は過去の遺産だけでなく、今まさに生まれつつある作品や新しい声によっても形づくられます。その芽が早いうちに摘み取られれば、未来に残るはずだった名作は失われます。

文化を守るということは、ときに不快に感じる表現や挑戦的な意見とも向き合うことです。この条約を実行するときには、そうした多様な文化と学問の自由を守るための明確なルールが必要です。私たちは、その仕組みがきちんと整えられることを強く望みます。


参考




クリエイティブ・コモンズ・ライセンス
この記事は特別な表記があるものを除いて クリエイティブ・コモンズ 表示 - 非営利 - 改変禁止 4.0 国際 ライセンスの下に提供されています。
表記があるものについては、それぞれの権利者にお問い合わせください。