コラム/ロゴづくり講座2回を終えて

公開日時/2026年07月16日

コラム/ロゴづくり講座2回を終えて - メインビジュアル

文:月ヶ瀬悠次郎 月ヶ瀬悠次郎

本稿は、2026年6月29日(月)、7月8日(水)の2回に渡って、まちのぷちたぷち(姫路市呉服町/認定NPO法人コムサロン21内)において“ひきこもり状態の方”を対象とした「ロゴづくり体験」講座を担当した当会の月ヶ瀬悠次郎代表のコラムである。

本稿は、2026年6月29日(月)、7月8日(水)の2回に渡って、まちのぷちたぷち(姫路市呉服町/認定NPO法人コムサロン21内)において“ひきこもり状態の方”を対象とした「ロゴづくり体験」講座を担当した当会の月ヶ瀬悠次郎代表のコラムである。


コラム/ロゴづくり講座2回を終えて

『ぷちたぷち』利用者の中には絵を描くことの好きな人が多く、またこれまで自己表現としての作品づくりが行われています。そして、芸文会議が担当する回でも「個人の創作から共作へ」ということを取り入れています。そういう流れから見ても、企画の最初にスタッフの方から打診のあった「みんなで自分たちのロゴマークを作ってみよう!」という主題は、とても魅力的で、とても創作的なものだと思いました。

一方で、いくつか心配なこともありました。

ひとつは「ロゴマークは引き算のルールで作られるものである」ということ。参加者の皆さんが色々と考えてくださるアイデアをバッサバッサと切り捨てていく作業になりはしないか。せっかく勇気を出して提案してくれたことを否定していくだけの回になってしまうのではないか。それは「プロのデザイナー」にとっては日常茶飯事であっても、楽しみながら社会復帰をしていこうという人たちに思いっきり冷水をぶっかけることになっては元も子もありません。とはいえ、逆に皆さんの意見を安直に、そして無批判に全部取り入れた「足し算ルール」盛々なものをつくっても、おそらくそれはロゴマークとして成立しないし、参加者にとってチャレンジにならない。

もうひとつは「デザインは単純な自己表現ではない」ということ。いつもの作品づくりは、いわば「アート」的な色が強いものですから、作っている自分が楽しくて、作り終わった作品を自身が誇らしく、あるいはほろ苦く思えて、他の人の作品を眺めて好きに面白がればよいのですが、これが「デザイン」となるとそういうわけにはいきません。「ロゴづくり」というのは、グラフィックデザインのなかでも特にごまかしの効かないシビアな分野です。ロゴマークにはロゴマークの役割があり、それが果たされなくてはいけません。

それで、こちらから提案…というか半ばご無理をお願いする形で前後編の2回に分けてワークショップを行うことにしました。また、過去二回と同様にミニ冊子『つきがせさんのあたまのなか3』をお作りして、配布しました。


『ことばの“タネ”をみつけよう』編

6月29日(月)に行われた前編『ことばの“タネ”をみつけよう』では、時間を割いて「デザインには目的・意図があるのだということ」をお話し、そして「ロゴマークの意図とは何だろうかということ」を参加者と一緒に考えました。そのうえで、「ぷちたぷち」という集まりを自分自身の視点/外部の視点、そして現在/未来のふたつの軸で各々分析してもらいました。

参加者が寄せ合った「ぷちたぷち」への思い
参加者が寄せ合った「ぷちたぷち」への思い

「デザイン」という言葉からは、おしゃれなイメージ、あるいは単に見た目を美しく整えることを思い浮かべる人が多いのですが、実際は「目的や意図を持って物事を計画し、相手に何かを伝えるための営み」なのです。それを見る人、使う人の視点や立場で、その人のことを何処まで深く慮れるか…というところが最も大切なことです。団体・組織のロゴマークというのは、「私たちはどういう団体なのか」「これからどんな存在でありたいのか」を見る人が感じ取れるよう伝えるものですから、「みんなでロゴを作る」ということを成立させるには、その目的・意図を参加者が共有することが肝要。

そこでまず、「ぷちたぷち」を見つめ直す時間を設けました。自分たちは今そこをどんな場所だと思っているだろうか。外の人からはどう見られているだろうか。そして、これからどんな場所になっていきたいか。利用者として、スタッフとして、それぞれの立場から思いつく言葉を自由に書き出してもらいました。

最初はなかなかペンが進まなかった人も、他の参加者の言葉を聞きながら少しずつ考えを深めていきます。「安心できる場所」「挑戦できる場所」「笑顔」「居場所」「一歩踏み出すきっかけ」──そうした言葉が少しずつ集まり始めました。こうして出てきた言葉を整理していくと、単なる感想ではなく、「ぷちたぷちは、こんな場所であってほしい」という共通した願いが浮かび上がってきました。

参加者の声を元に月ヶ瀬代表が用意したロゴ案4つ
参加者の声を元に月ヶ瀬代表が用意したロゴ案4つ

そうやって、前編では「ぷちたぷち」のロゴマークに込める思いや目的を、参加者全員で言葉として共有するところまでを行いました。

後編までの間に、前編で参加者が言語化した「ぷちたぷち」像をもとに、それぞれ異なる方向性を持たせながら、そしてそれぞれに言葉を取捨選択しながら、私の方でロゴ案を4つ制作しました。これは後編で選んでいただくためのものです。


『描いてびっくり!? わたしのロゴ』編

翌週7月8日(水)に行われた後編『描いてびっくり!? わたしのロゴ』では、まず前編で皆さんと一緒に考えた「ぷちたぷち」のイメージを簡単に振り返りました。そのうえで、私が制作した4つのロゴ案をお見せし、それぞれの案について、どの言葉を拾い上げたのか、どのような意図で形や色に落とし込んだのかを説明しました。

たとえば、安心感を大切にした案、明るさや親しみやすさを前面に出した案、一歩踏み出す動きを表した案、少し遊び心を加えた案というように、同じ「ぷちたぷち」を表すロゴであっても、どの言葉を中心に据えるかによって、まったく違う印象になります。ここでは、ロゴマークが単に「上手に描かれた絵」ではなく、言葉や思いを選び取り、見る人に伝わる形へ整理したものであることを、実際の案を通して確認してもらいました。

その後、スタッフと利用者の皆さんに投票していただき、4案の中から「ぷちたぷち」の正式なロゴマークを選びました。どれが正解ということではなく、「今のぷちたぷちにふさわしいもの」「これからのぷちたぷちを表すもの」として、皆さんが納得できるものを選んでいく時間になりました。

前編の言語化からこの決定までは、ある意味では実際にお仕事でデザイン物を作るときの「理想」に近い手順を通った気がします。

そして後編では、「自分の名前をロゴタイプにしてみる」体験講座を行いました。

配布した冊子と「名前ロゴ」の参考画像
配布した冊子と「名前ロゴ」の参考画像

前編の講座で考えたのは「ぷちたぷち」という場所についてでした。後編では、その対象を自分自身へと移しました。自分は今、どのような人間だと思うか。これから、どのような人間になりたいか。周囲からはどう見られていると思うか。そして、これからどのように見られたいか。前編と同じように、現在と未来、自分から見た姿と外から見た姿という二つの視点から、自分自身を整理していきました。

自分のことを言葉にするには、人によっては少し覚悟が必要です。すぐに書き始められる人もいれば、なかなか言葉が出てこない人もいます。それでも、うんうんと唸りながら、自分自身と向き合う時間を持ってもらいました。

名前のロゴに込めたい思いがある程度言葉になったところで、次は色や形、モチーフを選びます。持参した配色図鑑や色見本集を手がかりに、「やさしさ」は何色なのか、「強さ」はどのような形をしているのかを考え、名前に添えたいモチーフや図形を拾い出してもらいました。

続いて、それらをラフスケッチや指示書きの形で図案化しました。ここでの目的は、絵として完成させることではありません。「こういう雰囲気にしたい」「ここにはこの色を使いたい」「このモチーフを入れたい」といった考えを、ほかの人にも伝わる形にすることを重視しました。

そのラフスケッチや指示をもとに、私が内容を生成AIへの指示文に置き換え、参加者一人ひとりの名前ロゴとして仕上げました。完成した作品は、下半期のカレンダーを添えたポスターとして印刷し、それぞれ持ち帰ってもらいました。

自分の名前を単に飾るのではなく、自分がどのような人でありたいのか、社会に向けて自分をどのように伝えたいのかを考え、その思いを目に見える形にすること。それが、後編のワークの中心でした。


コミュニケーションをデザインする

名前というのは個人にとってもっとも身近で、もっとも基本的なコミュニケーションの道具です。名前は、他の人と自分を区別するための最小単位であり、同時に、社会との最初の接点でもあります。初めて会う人に名乗るとき、私たちは単に文字列を伝えているのではありません。「私はこういう者です」「こう呼んでください」「こう接してください」という、ささやかな自己紹介をしているのです。

また、多くの場合、名前は自分で選んだものではありません。親や、それに準ずる人が、未来への願いや期待を込めて与えるものです。そこには「こう育ってほしい」「こう生きてほしい」という、まだ本人が言葉を持たない時期に託されたメッセージがあります。もちろん、本人が成長していくなかで、その名前との距離感は人それぞれ変わっていきます。好きな人もいれば、少し照れくさい人もいるでしょう。重たく感じる人もいるかもしれません。それでも名前は、他者から呼ばれ、自分で名乗り、社会の中で自分を示すための大切な記号であり続けます。

ロゴマークもまた、それに近い性質を持っています。ロゴは単なる飾りではなく、「それが何者であるか」を伝えるためのしるしです。会社や団体のロゴであれば、その組織が何を大切にしているのか、どのように見られたいのか、どんな未来へ向かおうとしているのかを、文字や形や色によって表します。

だから、自分の名前をロゴにするということは、自分という存在を、社会に向けてどのように伝えたいのかを深く考えることでもあります。

今回の体験講座では、前編で「ぷちたぷち」という場所をどう社会へ伝えるかを考え、後編では「自分自身」をどう社会へ伝えるかを考えました。対象は違いますが、していることは同じです。どちらも、自分たちの内側にある思いや願いを言葉にし、それを他者に伝わる形へ整えていく作業でした。つまり、これは単なる作品づくりの体験ではなくコミュニケーションをデザインする手がかりにしてもらいたかったのです。

コミュニケーションに苦手意識を持つ人にとって、自分の考えを言葉にすることは簡単なことではありません。何を言えばいいのかわからない。間違ったことを言ってしまうのではないか。自分の意見を出すことで、他の人を傷つけたり、否定したりすることになるのではないか。そうした不安が、言葉を止めてしまうことがあります。

配布した冊子内の1ページ
配布した冊子内の1ページ

だからこそ、今回の講座では「自分の考えを伝えることは、他人を尊重しないことではない」ということを、配布冊子にも明記しました。意見を表明することと、他者を否定することは別です。自分はこう思う。自分はこうありたい。自分はこう見られたい。そのように言葉にすることは、わがままでも攻撃でもありません。むしろ、他者と関わるための大切な準備です。

そして、その言葉がすぐにうまく出てこなくても、色や形やモチーフを手がかりにすることで、自分の内側にあるものを少しずつ外へ出していくことができます。「やさしい感じ」「明るい感じ」「強そうな感じ」「落ち着いた感じ」。最初は曖昧な印象であっても、それを誰かに伝えようとする過程で、自分の考えは少しずつ輪郭を持っていきます。デザインには、そのように言葉になる前の気持ちを受け止め、他者に伝わる形へ橋渡しする力があります。

「ロゴを作る」という入口から始まった講座でしたが、デザインを学ぶ時間であると同時に、自分と社会との関係を考える時間にできたなら良かったと思います。


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実施レポート/「ぷちたぷち」ロゴづくり体験講座(前編)への講師派遣
https://himeji-geibun.net/article.cgi?no=260629

実施レポート/「ぷちたぷち」ロゴづくり体験講座(後編)への講師派遣
https://himeji-geibun.net/article.cgi?no=260716


アイキャッチ画像(ロゴが作られるイメージ)は生成AIによるものです。


出席者(敬称略)
月ヶ瀬悠次郎
上田成昭
記事協力
姫路市ひきこもり支援推進事業「ぷちたぷち」
AIアシスト
本記事の執筆には、体裁の調整や校正などにAIアシスタントを使用しています。

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